EurekaMoments

ロボットや自動車の自律移動に関する知識や技術、プログラミング、ソフトウェア開発について勉強したことをメモするブログ

自動運転のためのブレーキシステムの基礎知識

目次

背景・目的

自動運転における安全を担保するために、障害物との衝突を回避する
自動ブレーキシステムはとても重要な要素です。最近になって、
自分も自動ブレーキシステムの開発に携わるようになったのですが、
ブレーキというものが物理的にどういう仕組みで働くのかを全然
分かっていなかったので勉強してみました。
今回の記事では、勉強したブレーキの基礎について紹介します。

参考ブログ

この記事を書くにあたり、下記のブログを参考にさせていただきました。
どちらも説明がシンプルで分かりやすく、入門としておススメです。

www.carphys.net

www5f.biglobe.ne.jp

タイヤと地面の摩擦

ブレーキによって自動車が止まろうとする際に、タイヤと地面に作用する
力の関係を図示すると下記のようになります。

外力として、ブレーキで止めようとする制動力が加わるのに対して、それ
とは逆の方向に地面との摩擦力が生じる訳ですが、それらの関係は下記の
ようになります。

ブレーキを踏みこむことで制動力はどんどん大きくなっていき、それが
最大静止摩擦力を越えるまでは、制動力と摩擦力は同じ大きさで釣り合い、
この時タイヤと地面はグリップしてかみ合った状態となります。
しかし、このまま制動力が大きくなり続けると、タイヤと地面の摩擦力より
もタイヤとブレーキの摩擦が強くなり、いずれはブレーキがロックしてしまい
ます。こうなると、タイヤと地面の摩擦は小さくなり、それ以上はいくら
ブレーキを踏んでも摩擦力は大きくならなくなります(動摩擦力)。
こうなると、最初は地面とグリップしていたタイヤはスリップ状態になり、
停車するまでの制動距離が伸びてしまう要因となります。

ブレーキのロックについて

このブレーキがロックするというのが具体的にどういう状況なのかが
最初は良く分からなかったのですが、下記の記事を読んだことで理解
することができました。

bicycle-post.jp

www.carphys.net

ブレーキによる減速度の計算

ここまで述べたように、タイヤのグリップ時とスリップ時では制動力と
摩擦力の関係が変わってきます。それに伴い、ブレーキで停車するまでの
減速度の計算方法は下記のように変わります。

タイヤグリップ時

まず、タイヤの回転を止めようとするブレーキトルクとタイヤ半径により、
制動力は下記のようになります。

また、この制動力によってかかる減速度aは、運動方程式で下記のように
求まります。

そして、上記の2式と、グリップ時は制動力と摩擦力は釣り合うという
関係から、減速度はブレーキトルク、タイヤ半径、車両の荷重から下記の
ように決まると考えられます。

この式を利用することで、あらかじめ知る事ができる車体の仕様から、
ブレーキをかけた時の大体の減速度を見積もることが出来ます。

タイヤスリップ時

続いてタイヤスリップの場合ですが、ここでは制動力と摩擦力は釣り合わず、
常に一定かつ最大静止摩擦力より小さい動摩擦力が作用します。なので、
スリップ時の減速度は運動方程式により下記のように表せます。

停車するまでの制動距離の計算

ここまで述べたように、ブレーキによりかかる減速度は静止摩擦係数\muあるいは
動摩擦係数\mu'と重力加速度gによって下記のようになります。

停車するまでの間にこの減速度が一定にかかるとすると、停車して車速が0に
なるまでの時間は下記のように求まります。減速前の初速度をV_0
減速時間をtとして、

となります。この式を利用することで、自動運転している車両が障害物との衝突予測を
する際、自分が今の車速でブレーキを踏んだ場合にどれだけの時間を要して停車するの
か把握することができます。
また、ここまでの減速度と減速時間によって停車するまでに進む制動距離Dは、

となります。そして、先ほど求めた減速時間の式をこれに代入すると、

という形で制動距離を求めることができます。また、この式を初速度V_0が左辺に
来るように変形すると、

というようになり、制動距離から初速度を逆算できるようになります。自動運転の
衝突予測では、障害物までのセンサの検知距離や、停車時に確保したい障害物との
間の距離から、安全に停車するために実現したい制動距離を決定することができます。
これによって、安全に停車するために許容される直前の初速度を上式によって決定し、
それを目標とした速度制御を行うということができるようになります。